
苔はどこにでも生えているイメージがあるため、育てるのが簡単そうに見えます。
ところが実際に手元で育てはじめるといつの間にか茶色く変色し、気づいたときには枯れ果ててしまっていたという経験をする方が少なくありません。
苔は確かに生命力の強い植物ではありますが、環境適応力に優れているとはいえ、コケ植物である以上は光合成を行いますし枯れることもあります。
苔が枯れてしまうということは、正常に光合成ができていないことを意味します。
問題は、枯れるまでの過程が比較的ゆっくり進むため、気づいたころにはすでに取り返しのつかない状態になっていることが多い点です。
苔盆栽を長く楽しむためには、枯れてしまう原因を正しく理解しておくことが何より大切です。
原因は複数あり、しかも相互に絡み合っていることも多いので、一つひとつ丁寧に確認していきましょう。
光の不足と強すぎる直射日光
苔を育てる上でまず見直すべきなのが、置き場所の光の加減です。
苔はジメジメした日陰を好む植物と思われがちですが、その思い込みが苔を枯らす原因の一つになることもあります。
苔は本来、日の光が当たる場所に好んで生えています。
一日中真っ暗な場所に生えている苔は、自然界にはほとんど存在しないのです。
半日陰や木漏れ日の差し込むような場所を好みますが、一日中直射日光が照りつけるような場所は避けています。
つまり苔が好むのは、明るすぎず暗すぎない、ちょうどよい加減の光環境です。
室内管理の場合でいえば、山苔やギンゴケは半日陰を好みますので、直射日光の当たらない木漏れ日があたる明るい日陰や室内では最低でも2〜3時間光が当たる場所に置きます。
スナゴケやハイゴケは比較的日当たりに強いです。
種類によって光に対する耐性が異なりますので、手元にある苔の種類を確認した上で置き場所を決めることが重要です。
苔類は直射日光を嫌い明るい日陰を好む性質がありますが、だからといって暗い室内に長期間置いていると光量不足で茶色く変色してしまいます。
室内であまりにも日の当たらない場所、たとえば玄関の奥や廊下の隅などに長期間置くことはよくありません。
夏の高温と蒸れの問題
苔は寒さや暑さといった自然環境の変化には強いのですが、人為的に作り出された環境には適応できないことがあります。
その典型的な例が多湿状態で高温にさらされてしまうことです。
真夏になると多くの方が「暑いから苔が萎れないように」と日中に水をあげてしまいます。
しかしこれは逆効果で、真夏の日中などに水をあげてしまうと苔は無理矢理水分を吸わされて葉を開いてしまううえに高温で茹だってしまいます。
そのような状態になると白くなって枯れてしまいます。
室内でダメにしてしまう原因のトップは「蒸れ」です。
高温で風通しが悪く、湿気たっぷりな場所に置くと苔玉は蒸れてしまいます。
カビが生えたり、植物の根が腐ってしまう根ぐされを起こすこともあります。
マンションなど現代の住宅は気密性が高く、人間には心地良い空間でも植物にとっては蒸し風呂になることがあります。
蒸れを防ぐには風通しが欠かせませんので、空気が動いていることが必要です。
窓を少し開けておいたり、小さな扇風機を回しておいたりするだけでも効果的です。
水やりの誤りが最も多い原因
苔盆栽が枯れてしまう原因として、水やりに関するミスが最も多く見られます。
多すぎても少なすぎても苔にとってはダメージになるため、その加減が難しいと感じる方は多いでしょう。
受け皿に水を常に溜めておく管理方法は特に問題です。
常に水を含んだ状態だとコケはストレスを受けて枯れてきてしまいます。
コケが好きなのは、水に浸っているよりも空気中の湿度が高いしっとりした状態です。
逆に乾燥が続きすぎることも問題になります。
苔は過湿を嫌うものの、空気が過度に乾燥してしまうと葉先が茶色くなってきます。
そのまま同じ環境で育て続けるとやがて全体が枯れてきてしまうこともあります。
また水やりのタイミングだけでなく方法も重要です。
理想的な水やりは、朝早い時間または夜遅い時間にジョウロを使ってたっぷりと水をかけることです。
その後余分な水をよく切ってからお皿に戻しましょう。
苔の種類ごとに水やりの方法が異なる点にも注意が必要です。
エアコンや暖房による乾燥
室内で苔盆栽を管理する場合によく見落とされるのが、エアコンや暖房による空気の乾燥です。
エアコンの風が直接当たる所や暖房の近くなどで育成しないようにしましょう。
また普段から定期的に霧吹きでコケを湿らせてあげると変色防止になります。
特に乾燥しやすい季節は水やりと水やりの間にこまめに霧吹きして保湿するイメージでお世話することをおすすめします。
明るいキッチン周りや出窓でも人が暮らしている場所はエアコンを使うなど空気がドライになりがちです。
苔玉のコケには過酷な環境です。
苔盆栽にとって理想的なのは屋外の明るめの日陰であり、できれば自然の雨がかかるような場所です。
室内管理には本質的な限界があることを理解しておく必要があります。
カビと根腐れのサインを見逃さない
苔盆栽において手遅れになりやすいのが、カビや根腐れのサインを見逃してしまうケースです。
カビについては、気温と湿度が高く、風通しが悪いと苔玉の表面にカビが生えてしまうことがあります。
特に梅雨の時期は発生しやすいので注意してください。
カビを見つけたら、まずはベランダなど日当たりのよい場所で乾燥させます。
カビは一度発生すると広がりやすいため、見つけ次第すぐに対処することが大切です。
根腐れについては見た目では判断しにくいため注意が必要です。
葉の変色は根腐れの初期段階であるため改善の余地があります。
また変色だけでなく落葉が多く見られるケースも根腐れになっている危険性があるため要注意です。
さらに進行すると腐った部分から悪臭が漂うようになります。
ここまで進んでしまうと植物自体への影響はもちろん、鉢や土にカビが生えてしまい、衛生的な問題が生じます。
肥料を与えていないにも関わらず虫が寄ってくる時には根腐れを疑ってみると良いかもしれません。
水の与え過ぎや高温多湿の環境に長期間置いていると根が傷んでしまうこともあります。
コバエが急に集まりはじめたときは、土の中の状態を確認するサインだと思ってください。
急激な環境変化にも注意
苔は環境適応力が高いので乾燥にも多湿にも強いのですが、急激な環境の変化には限界を感じることもあるようです。
乾燥と多湿を短時間で繰り返すような極端な環境の変化ではカビが生えたりして枯れてしまうこともあります。
屋外から室内へ、または室内から急に屋外の強い日差しの下へ移動させるといったことは、苔にとって大きなストレスとなります。
置き場所を変える際は少しずつ環境に慣らすように心がけましょう。
世話の焼き過ぎは逆効果であり、放っておくくらいの方が元気に育ってくれるということになります。
苔の生命力を信じて「見守ってあげること」が苔にとって良い環境であることも多いということを理解しておきましょう。
日々の観察が最大の予防策
盆栽の樹と鉢土の状態を常によく観察することが、初心者が最も簡単にできる盆栽を枯らさないための対策です。
毎日樹と鉢土の状態を観察しながら水かけをすることが理想ですが、少なくても1ヶ月に2〜3度は、1鉢ずつ手に取って樹の頂から根元、そして鉢土の状態まで細部に渡って時間をかけて観察することが大事です。
苔盆栽は目に見えるサインを出しています。
色の変化、質感の変化、においの変化、虫の発生、どれも苔や根の状態を教えてくれる重要な情報です。
これらを早期に察知できるかどうかが、手遅れになる前に対処できるかどうかの分かれ目になります。
毎日少しだけ目を向ける習慣が、長く美しい苔盆栽を維持するための一番の近道です。