
苔盆栽に肥料は必要なのか、また与えるとしたらどのタイミングで、どんな種類を選べばよいのか?
このような疑問は苔盆栽を始めた方がほぼ必ずぶつかる疑問です。
結論から言うと苔そのものへの施肥は基本的に不要ですが、苔盆栽という形式ならではの事情が絡んでくるため、状況に応じた判断が必要になります。
苔盆栽に肥料は必要なのか
苔を育てる上での基本的な考え方として、苔そのものに肥料は必要ありません。
苔は主に茎と葉から直接水分を吸収しており、空気中の水分や朝露、雨などを通じて必要なわずかな栄養やミネラルを取り込んでいます。
ホームセンターに行っても「苔専用肥料」という商品を見かけないのはそのためです。
ただしここで注意したいのは、苔盆栽が「苔だけを育てるもの」ではないという点です。
盆栽に使用される土には栄養分がほとんど含まれていないため、苔と共存している樹木が葉や茎を伸ばして成長するためには、あるいは花や果実をつけるためには、養分となる肥料が必要になります。
つまり、苔盆栽における肥料の問題は、苔と樹木という二種類の植物が狭い鉢の中で共存しているがゆえに生じるなかなか厄介なジレンマを抱えています。
苔と肥料の相性が悪い理由
苔には他の植物のような根がなく、仮根と呼ばれる部位の役割は苔同士を結びつけて群落をつくり、地面につなぎとめることです。
吸収した養分を葉や茎に送る機能がないため、仮根の細胞の中で養分を処理しなければならず、樹木や草花に与える程度の肥料の量でも容易に養分過多となってしまいます。
そのため、植物用の肥料を苔にそのまま与えてしまうと肥料焼けを起こしてしまいます。
肥料に触れた部分から茶色または黒く変色し、放置するとそのまま枯れが広がってしまうことがあります。
肥料焼けはごく少量でも起こりうるため、苔が覆われた状態で安易に施肥するのは避けるべきです。
盆栽の苔に肥料がかかることで苔は傷んでしまい、高い確率で枯れてしまいます。
置き肥でも液肥でもこの問題は発生します。
こうした理由から、苔を美しい状態で保ちながら樹木にも適切な栄養を届けることは、盆栽管理における課題のひとつとされています。
苔盆栽に肥料を与えるタイミング
苔そのものに肥料は不要であっても苔と一緒に植えられている樹木に対して施肥が必要な場合には、時期と方法を慎重に選ぶ必要があります。
施肥する時期は夏と冬を避けた3〜6月、9〜11月が適しています。
冬の時期は苔も休眠状態に入っているため、肥料を与えても効果がなく、逆に枯らしてしまうことさえあります。
冬場の施肥は控えるようにしましょう。
夏についても高温多湿で苔が蒸れやすい時期であり、肥料成分による負担が重なると苔へのダメージが大きくなるため、施肥を避けるのが賢明です。
肥料を与える期間は、4月〜梅雨時までの生育期と9月〜11月の冬越しの準備期間です。
この二つの時期は苔も含め植物全体が活動的になる季節であり、施肥の効果が得られやすいタイミングでもあります。
おすすめの肥料の種類と与え方
苔盆栽に適した肥料を選ぶ際には、できるだけ苔に直接触れない方法で施用できるものを選ぶことがポイントになります。
液体肥料
苔盆栽の肥料にはハイポネックスなどの液体肥料を薄めたものを使うとよいでしょう。規定量の2〜3倍に薄めた液肥を7〜10日毎に1回、水やり代わりに与えましょう。
通常の濃度よりも大幅に希釈することで、苔への直接的なダメージを軽減することができます。
液肥は月に2〜3回を目安に通常の濃度より薄めたものをジョウロで水やりの代わりに施すことができます。
置き肥(固形肥料)
固形の緩効性肥料を月に1回程度、対角線上に鉢の隅に2個置きます。
苔を貼っている場合は、苔をはずして土の上に置くようにします。
苔の上に直接固形肥料を置くと溶けた成分が苔に触れて焼けてしまうため、この方法が守れない状況では置き肥の使用は控えた方が無難です。
苔の下へ肥料を直接届ける方法
より丁寧に苔と樹木の共存を図るアプローチとして、苔の下に液体肥料を直接送り込む方法があります。
アクリルパイプで作った浸透桝を鉢の中に埋め込み、そのパイプを通して鉢の土に有機肥料で作った液体肥料を流し込みます。
この方法はやや手間がかかりますが、苔の表面に肥料成分を触れさせずに樹木の根へ養分を届けられるため、苔を傷めることなく施肥できる理にかなったやり方といえます。
苔盆栽の肥料管理で気をつけること
苔の状態が悪くなったとき、肥料で回復させようとするのはよくある誤りです。
変色や枯れの原因は水やり以外の湿度や日照の問題であることがほとんどです。
苔が弱ったからといって肥料で回復を図ろうとしてはいけません。
苔はあまり多くの栄養を必要としない植物で、雨水だけで岩の上やブロック塀などに生えるくらいです。
しかし生物が成長するということは何らかの栄養を使っているわけで、まったく必要ないというわけでもありません。
より長く元気に育てていくためには、多少の肥料は必要な場合もあります。
このバランス感覚こそが、苔盆栽の肥料管理における核心です。
与えすぎず、与えなさすぎず、あくまでも苔の状態を見ながら慎重に判断することが、長く美しい苔盆栽を維持するための鉄則です。